Space.30「ヨッシャ!奇跡のキュータマ」

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 過去編完結!?

 様々なミラクルが立て続けに起こり、シシレッドオリオンが誕生、そして遂にドン・アルマゲを倒すに至るプロセスは、さながら最終回の様相。というより、今シーズンの最終回ノリは何回目だろうかという(笑)。しかし、すべてが万事OKで終わるわけではなく、かなりの痛みを残して現代へと帰還するところにヒロイズムが感じられました。

 そして、現代では...。

ラッキーとツルギ、命のやり取り

 ちょっと物騒な見出しを付けてしまいましたが、勿論それは殺伐としたものではなく、ラッキーを必要とするツルギによってなされる「儀式」のようなやり取りを指します。

 全く違うニュアンスながら思い出したのは、「ウルトラマンA」のヒッポリト星人の話。竜隊長の「私にも星人にも命がある。命と命を交換すれば...勝てる」という名台詞がありますけれど、生命の定義、等価性を如実に表したものだと思います。今回も、ツルギの命が有限となったことにより、ホウオウキュータマの力を用いたラッキー復活は、ツルギ自らの命を与えるに等しい行為として描かれることになるわけです。結果的にはラッキーの類い稀なる強運により、ツルギに影響することなく復活を果たしましたが、既にツルギの命は永遠でないことが強く印象付けられることになりました。

 ここで強調されるべきは、ツルギの口からラッキーの必要性が語られるところでしょう。ツルギ登場当初は、彼以外に救世主を名乗れる者なしというポリシーで行動するのみの、非常に孤独なヒーローでした。しかしラッキーと出会い、彼の型破りな言動と幸運を自ら引き寄せる行動が「新たな伝説の幕開け」を予感させ、ドン・アルマゲの生存と救世主伝説の喪失を目の当たりにし、もう一度宇宙を救うためには自分だけの力では不足していると、遂に悟るに至ったというわけです。もうこのシーンだけで、私は満足してしまったことを告白しておきます(笑)。

 ラッキー復活の「儀式」は、ホウオウキュータマのパワーをラッキーに注ぐという描写でした。至極真っ当かつストレートな描写となっており、実に分かり易いと言えるでしょう。ただ、「命のやり取り」というテイストはやや弱く、ツルギのリスクが少々不明瞭だったのは惜しいところ。上半身裸になっての大熱演が素晴らしく、欠点をカバーしてはいましたが、観念的な描写であっても命の移譲がプロセスとしてもう少し描かれると、なお素晴らしかったのではないかと思います。

ラッキー奇跡の復活

 ツルギが命を失うこともなく、ラッキーは見事に復活。真打ち登場とばかりに颯爽と皆の前に出現します。ここで、何故ツルギは命を失うような事態に至らなかったか、考えてみる価値はあると思います。予定調和と言われればそれまでですけど、その裏に込められたテーマ性には、この際注目しておくのも一興かと。

 見出しのとおり、そしてシシレッドオリオンの名乗りにあるとおり、「奇跡」「ミラクル」といったタームにすべてを委ねることもできます。しかし、何故ミラクルが生じたのかこそが肝要であり、その理由は劇中でそれとなく言及されていました。ラッキーと仲間たち、そしてツルギが出会ったこと、ツルギの提案で過去に向かいオライオンとラッキーが出会ったこと、オライオンが獅子座系に妻子を避難させたこと、その子孫がラッキーであると気付いたこと...すべての繋がりが、ラッキーを「そういう星の下に生まれた者」という印象に接近させます。正に、星座系の戦士たるが故ということですよね。

 そしてラッキーは、仲間と認めた者たちの「死」を許さない。ツルギがかつての大戦で味わった哀しみは繰り返させない。新世代の救世主は前代よりも一歩先を行く者として描かれます。故に、ツルギが死ぬことをラッキーは決して認めないわけです。恐らくは、そんなラッキーの強烈な思念がツルギの命をも救ったのではないでしょうか。

 一方で、オライオンはラッキーの仲間ではなく、あくまで祖たる英雄であり、語弊を恐れないならばラッキーにとって「父」のような存在でした。そして、キュータマの力で変身することもなく、その力はラッキーに託されることになったわけです。だから、残念ながらオライオンには死が「許された」のでした...。

オライオンの死

 これは今回最大の驚きでしたね。

 そもそもアルゴ船復活のキーとなるキュータマを遺し、救世主伝説の語り部として未来で生存が約束されていたキャラクターであり、ある意味最も予定調和に庇護されるべき人物と言っても良かったわけですから。

 オライオンの死の影響はキュウレンジャー自体の存在を消滅させるに至るという、タイムパラドックスの妙味を一応は描出して見せたものの、ショウ・ロンポーがその代わりを務めるという大胆な発想により、すぐさま解決してしまう軽さを発揮(笑)。「キュウレンジャー」らしさ全開ではありましたが、ちょっとオライオンの死の印象を薄めてしまったのは否めないところですね。

 劇中では殆ど描かれませんでしたが、ツルギの心中はどうだったのでしょうか。また一人、かつての仲間の死を目の当たりにすることになったツルギ。その魂が、名実共にラッキーに継承されたことに触れ、先の大戦とは違う感情を抱いたとは思いますが、やはり人一倍辛かったのではないかと思うと、ちょっと哀しいものがありますね。

 脇腹を密かに負傷していて、それがやがて致命的な問題になるという展開は、昔からよくあるものですが、近年で最も印象深かったのは「007スカイフォール」で、長年の上司Mが同様の傷を隠して最終的に命を落とすというくだり。これは実にインパクトがありました。Mの死は一種の不文律を大きく覆すものでしたから。そこにも、深読みすれば母から子への魂の継承といった概念が見て取れるわけですが、今回のオライオンとラッキーも同様の関係性を呈していたと見て良いのではないでしょうか。

 残念なのは、今後の宍戸開さんの登場機会がグーンとその確率を落としてしまったことでしょう。しかし、ビッグベアのような例もありますから、もしかすると...という期待はありますね。ラッキーの起こす奇跡を目の当たりにし、達成感から来る笑みを浮かべながら事切れるという凄絶で美しい最期を、抜群の存在感を以て演じられ、若い俳優陣にとって大きな糧になったのではないかと推察されます。

シシレッドオリオン VS ドン・アルマゲ

 白い!

 ビックリですね。イメージソースは四大エネルギーを兼ね備えた白い鳥人ビッグワン(「ジャッカー電撃隊」)でしょうか(多分違う)。ラッキーとオライオンの、時空を超えた血筋と魂の繋がりが生んだ最強戦士という触れ込みで、それに相応しい活躍を見せました。

 ドン・アルマゲは、それこそシシレッドオリオンが登場するまでは、何者をも寄せ付けない無類の強さを発揮しており、一閃しただけで並み居る救世主たちを変身解除にまで追い込む恐ろしさ。これをどうやって倒すのか...と思わされるのは、完全に制作陣の思うつぼ! それ以上の描写を以て、シシレッドオリオンはドン・アルマゲを圧倒するわけです。

 まずは、空間の概念を打ち破って遠隔攻撃を行い、ククルーガを瞬殺! これは凄いインパクトでしたね。続いてキュウレンジャーの全武器を召喚して自動攻撃させつつ、自らも確実に一太刀一太刀をヒットさせていく戦法でドン・アルマゲの戦意を徐々に殺いでいきます。画面作りも凄まじいことになっており、恐らく二〜三回見返してようやく全容がつかめるのではないかと思います(笑)。

 最後は、全星座から一斉に光線が放たれるという、超絶壮麗ビジュアルが強烈な決め技で。こうなると、もはや獅子座とオリオン座といった話ではなくなっているのはご愛敬。そして、これ以上のバトルをどうやって本当の最終回までに盛り込んでいくのか。ここでこんなにハードル上げちゃって良いのか...と色々な心配をしてしまうわけですが、大丈夫なはずですから期待しておきましょう。

 一方で、不利と見たドン・アルマゲによって復活&巨大化させられたフクショーグン三人衆が繰り広げる巨大戦と、並行で見せているのも良いところ。こういう立体的な構成は、限られた尺の中で諸要素を盛り込む最適解だと思います。ショウ・ロンポーの息抜きになるセリフ回しも楽しいですね。

そして、現代では...

 一件落着、意気揚々に凱旋を果たす面々でしたが...。

 未だナーガは闇堕ちしたまま。人々の姿もなく、ハミィが苦境に叫ぶのみ。ビル群に映し出されるドン・アルマゲの姿。何も変わっていないどころか、却って悪くなっているのではないかという...。

 倒しても倒しても何故か生存しているドン・アルマゲの秘密、全く読めないですね。ショウ・ロンポーとチャンプが過去に残ったりと、色々複雑なタイムラインを形成していますので、これから何が起こるか全然予測出来なくなりました。いやぁ、面白いですね。

次回

 ナーガ編も決着か!? バランスの大活躍に期待ですね。そして、ドン・アルマゲの生存がどう受け止められるのか...。刮目します!