Space.Final「宇宙に響け!ヨッシャ、ラッキー」

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 9人体制での開始という前代未聞の多人数戦隊。早々に追加戦士が3人も登場し、中盤で12人体制が確立。そのまま一人も欠けることなく最終回に辿り着くという、真に前代未聞なシリーズ、それが「キュウレンジャー」でした。

 フレッシュなメンバーに芸達者な声優陣、盤石な体制のスーツアクター陣、宇宙を表現するアイディアに溢れたスタッフ陣は、正に当シリーズがいかに「ラッキー」なシリーズだったかを物語ります。

 最終回は、全編に亘ってドン・アルマゲとの最終決戦のみに徹底される潔い構成。2年後という設定でのエピローグは、スパーダ流に表現すれば正にデザート感覚であり、微笑ましい幕引きを彩ってくれました。

最終決戦!

 最終決戦は、「宇宙そのもの」を豪語するドン・アルマゲと、その宇宙を否定するキュウレンジャーの激突となりました。

 凄まじい勢いで攻撃を繰り出していくキュウレンジャーを、最高のアクションで見せてくれます。しかし、その攻撃の数々はドン・アルマゲに効いているように見えるも、結局は宇宙を我が物とした巨悪の前では無力に等しい。ここに来て、まだ絶望感を煽ってくるのが凄いですね。これまでのドン・アルマゲ憑依体や分身は、かなり弱い印象を持たれても仕方ない描写でしたが、さすがは最終決戦だけあって、そのあたりを巧く払拭しているように思います。

 ここで突破口を開くのは、やはりキュウレンジャーのアイコンたるラッキー!

 ドン・アルマゲが吸収したのは、宇宙のありとあらゆる生命体のエネルギーだったことを逆手に取り、吸収された人々に呼び掛けるという荒技に出ます。前後して、ドン・アルマゲの正体が「運に見放された人々の嘆きや苦しみから生まれた者」と判明。ラッキーは「運は自ら行動して呼び込むもの」だと説き、自らがその象徴たる存在であることを宣言するのです。すると、ドン・アルマゲの提唱する宇宙を受容できない人々の声が高まり、ドン・アルマゲから力を奪っていきました。それを「力がこぼれ落ちる」と表現するドン・アルマゲ。正に「力を無理矢理囲い込んでいた」ことを窺わせる表現であり、秀逸でした。

 このラッキーの呼び掛けは、本シリーズで再三に渡って宣言され続けたテーマであり、最終回で改めて叫ばせることに大きな意義がありました。しかも、このテーマを叫ぶこと自体が劣勢を打開するきっかけになるあたりは、見事としか言えません。勿論、この展開を逆算して、ドン・アルマゲの正体を決定している面はあると思いますが、人々の心がドン・アルマゲを生み出したという図式を導入したことで、救世主が人々の心をも救うという、さらに踏み込んだテーマへと昇華されたように思います。「レスキューポリス」シリーズが試みたテーマを、戦隊流の明快さで描いて見せたと言っても良いのではないでしょうか。

 さらにここでは、ラッキーのみならず全員に個々の抱えるテーマを叫ばせるシーンが用意され、多少冗長な感は否めないものの、最終舞台に相応しい見せ場として成立していました。個々のセリフは再録しませんが、それぞれが納得できるセリフを精一杯の力を込めて叫んでいる様子には、感涙を禁じ得ません。

 少々不満があるとすれば、冒頭の超絶アクションに比べ、逆転劇後は光線の応酬であまり動きを伴わず、キャスト陣の叫びばかりこだましていたな...という印象だったことでしょうか。巨大戦にまで持ち込まれた一戦だったわけですが、巨大戦でも光線の応酬となり、打撃や剣戟の醍醐味があまり感じられない逆転劇となってしまいました。まあこれは、12対1という図式ではフィジカルな描写によるとどめの一撃を成立させがたいという面があったものと思われます。個々の見せ場を重視して、一人一人が気合を入れるカットが12人分続くので、途中で息苦しくなる場面も(笑)。それぞれの芝居の個性が感じられて、良かったんですけどね。

降り注ぐ流星群に乗り

 主題歌の一節を体現して登場したラッキーは、最終話でもそれを体現して見せました。綺麗に初回と最終話がリンクし、正に結びの一手となったのは感慨深いですね。

 巨大戦に敗れたドン・アルマゲは、次なる手段として現時点での最強の男であるラッキーに憑依すべく、宇宙へと吹っ飛ばします。宇宙へ飛ばされたラッキーはみるみる凍てつき、その命も風前の灯に。近年の映像作品では、宇宙に投げ出された人物の皮膚が凍り付いていく描写が定番となっており、「最後のジェダイ」や「スタートレック:ディスカバリー」といった宇宙を舞台とする最新の海外作品でも同様の描写が観られましたね。これら「最新の定番」を踏襲するあたりが素晴らしいと思いました。

 さて、ドン・アルマゲがいざラッキーに憑依しようとしたものの、それは果たされず。それは、Luckに対してネガティヴであることの象徴たるドン・アルマゲと、Luckに対してポジティヴであることの象徴たるラッキーが、完全に相容れない存在だったからですね。

 ドン・アルマゲを弾き飛ばしたラッキーは、偶然にも飛来したシシ座流星群に乗り、チキュウへ帰還! 彼の信じたこの強運こそが彼の最大の武器。最後の一太刀はシシレッドが決めるという、これまでの光線一辺倒への不満を払拭する一撃は実に胸のすくものでした。

 ここで気付くのは、ラッキーとドン・アルマゲが完全な対局に位置する存在となったことでしょう。前代のツルギが抵抗者の代表として対峙しながら、ドン・アルマゲを滅ぼせなかったのは、ドン・アルマゲの本質に対抗する術を持たなかったからだと言えます。類い稀なる才能に恵まれたツルギも幸運な男だったはずですが、ラッキーほど光明に寄る人物ではなく、どこか犠牲というタームに囚われ続けて来た面がありました。しかし、ラッキーは犠牲さえも否定し、強運を妄信して猛進する人物でした。ドン・アルマゲを滅ぼすべくして現れた救世主がラッキーという人なんですね。

 ただ、「対極」になったということは、ラッキー自体がドン・アルマゲの裏返しであるということでもあり、ある意味別のポリシーを持った支配者が出現することにもなりかねないわけです。しかし、実はそこにもちゃんと回答が用意してあって、ラッキーは「王」であることを殆ど放棄し、ガルと共に険しくも楽しい旅を続けていることが判明します。つまり、自分のポリシーを数多の人々に押しつける立場になるということはなく、なおも苦しむ人々を助け、一方で自由を謳歌する宇宙を見て回ることを選択したわけですね。

恒例の素面名乗り

 最終話とあって、恒例の素面キャストによる名乗りが行われました。素面と言っても、スーツキャラに関しては同一のアクターさんたちが演じているので、なんだか錯綜してしまいますが(笑)。

 それぞれが徹底的に練習したと思しき完成度! アクロバティックなポーズではなく手短なので難易度は「ダイレンジャー」なんかと比べれば低い方ですが、シンプルだけに印象を寄せるのが非常に難しいとも言えます。中でもカメレオングリーンの絶妙な動きをしっかりトレースしたハミィの動きは特筆モノでしたね。あと、スパーダがいつにも増してハイトーンだったのには、失礼ながら笑ってしまいました。絶対狙ってますよね。

 スパーダのみならず、それぞれが普段より少し強めた感じで名乗っていて、さすがは最終戦といった雰囲気でした。個々の名乗りの直後に変身し、全員でキュウレンジャーを名乗るという段取りも美しかったです。

2年後

 エピローグは最終決戦から2年後。それぞれのその後がコンパクトかつ効果的に描写されました。小林麻耶さんが登場したのには驚きましたね。さすが、レポートのシーンの巧さは際立っていました。

 スパーダは9つ星を獲得するシェフになっており、エピローグはその開店祝いが舞台となります。

 バランスとナーガはBN団を継続中。ジャークマターに奪われた数々の秘宝は奪い返し、人々の元へ返すという「仕事」に勤しんでいる様子。つまり、ジャークマターの残党は弱体化しつつもまだ存在しているというわけです。

 ショウ・ロンポーは宣言どおり出世してリベリオン総司令となるも、相変わらずの調子。空席となった司令のポジションに収まったのはスティンガーであり、ラプター283はその秘書として活動を継続しています。ラプターはスパーダに対する態度が妙で、完全にカップリングのフラグが立っています(ドラマCDの情報ありがとうございました!)。

 ハミィは教師になるために大学に在学中。これは演者である大久保さんの実年齢と重なっているため、突出してリアルな印象がありました。

 チャンプはロボレスチャンピオンの座を99連続で防衛中! 小太郎はリベリオンの隊員として継続的に活動しており、ちょっと髪型が大人っぽくなっているのがいいですね。

 ツルギは宇宙連邦大統領に再就任していますが、その地位にしてこうして集合の機会にちゃんと現れるあたり、最終戦直前のラッキーとの約束が守られているようで感慨深いものがあります。

 ラッキーとガルは前述のとおり宇宙を旅していますが、二人乗りのスペーススクーター(?)という心許ない装備。約束の時間になってもスパーダの店には辿り着けず、エンジンが故障するという体たらく。全然幸運じゃないところがいいですよね。結局墜落した先がスパーダの店の庭だったという、幸運なのか否かまったく分からない(ラッキーは「よっしゃ、ラッキー!」と言ってますが)オチが付いて物語は大団円。これからも続きそうな余韻を残して幕引きとなります。

そして...

 「スペース・スクワッド」シリーズの一環としてさらなる「その後」が描かれるそうです!

 

 「キュウレンジャー」は多人数戦隊として少々奇をてらった体裁で開始されましたが、その特徴を活かした部分と活かし切れなかった部分とが、かなり明確になった作品だと感じました。

 小編成のチームを並行して動かすという、ワクワクするような展開もあれば、全員が脈絡なく同じ画面に収まっている場面もあり、制作的にはかなり難しい題材だったのではないかと思われます。また、物語の軸がラッキーという存在からぶれることがなかったのは良いのですが、敵味方の概念を超えてドラマのうねりに翻弄され、キャラクター性を掘り下げられる機会のあったスティンガーやナーガ、ツルギといったストーリーの牽引者と、そうでないメンバーとでは描写の差が大きく、単純な論で言っても尺不足は否めませんでした。

 特にハミィとスパーダは演者の好演に比して印象が薄くなってしまいました。ハミィは、ヒロインにしては主人公であるラッキーからは遠く、マスコットとしてはラプターほど振り切っていないというポジションにあり、忍者キャラも徹底されず、教師という夢も唐突という、なんとなく不憫な扱いになってしまったのが残念ですね。スパーダは「いいキャラ」という印象なのですが、もっと非戦闘員としての主張が欲しかったように思います。「ジェットマン」の鹿鳴館香のような感覚があると面白かったかな...。

 そこへ行くと、登場回数を順調に増やして印象を強めた小太郎は、幸運なキャラクターでしたね。何のギミックもなくそのまま変身する少年メンバーという、前例が全くないキャラクターをパイオニアとして立派に勤め上げました。是非、数年後に大人メンバーとして返り咲きを果たして欲しいですよね。

次回...と言いたいところですが

 次週より「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」が開始されます。

 例年ならば、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャーを見たか?」を展開するはずでしたが...。残念ながら来シーズン(というより来シーズン以降)は休止を選択しました。近年は毎週かなり苦しみながら書いており、また年齢的なものもあって公私ともに多忙となり、ちょっとこの辺で一歩下がりたいと思い至りました。

 自分の感覚が老成し、近年のコンテンツについて行けなくなったのは大いに感じるところでして、実のところ「キュウレンジャー」の9人体制には当初面食らったクチであり、「ルパンVSパト」は、見た目ではそれをさらに超えるパターン破りのコンセプトであったことから、多分「見たか?」シリーズを書くのはキツいだろうと思い、決定させて頂いた次第です。

 戦隊の「見たか?」シリーズは「シンケンジャー」から9年に渡って継続、「ゲキレンジャー」のコンテンツから数えて11年、「グランセイザー」や「ウルトラ」を含めると15年。私の人格の至らなさで紆余曲折はありましたが、多くの方々に概ね好意的にお読み頂き、感謝に堪えません。

 特に特に、ずーーーーーっと毎週コメントを付けて頂いた、天地人さんと竜門 剛さんには感謝してもしきれません。一向に出て来ない文章を何とかひねり出せたのも、お二人のコメントあってこそでした。そして、特に返信も付けず大変失礼を致しました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 戦隊を見なくなるわけではなく、やっぱり少しぐらいは何か言いたいので、一応、私の雑多な(というより最近はプラモばかりな)「 SirMilesのマニアックな日々 」というブログの方にカテゴリを設けて何か書いていきます。「見たか?」シリーズのようなボリュームでは書けない代わりに、もうちょっとマニアックな感想を一言二言でも書いていきますので、よろしければご覧下さいますようお願いいたします。

 それでは、1年間ありがとうございました。そして、15年にわたって稚拙で無教養な文章にお付き合い頂いて、ありがとうございました。気が向いたら、またやるかも知れません(笑)。

 今後とも sirmiles.com にお付き合いの程、よろしくお願いいたします!