忍びの21「燃えよ!夢の忍者野球」

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 野球対決!

 シーズン感溢れる設定で展開される今回。強引に野球へと持って行く筋運びにはちょっとノれない感が強かった上に、完全なギャグ編を期待して観ると、意外にシリアスなテーマがあってギョッとしたり。また、新章開始と言わんばかりにキンジのポジション変更と牙鬼軍団の編成変更があったり等、詰め込みも激しくて焦点がぼやけてしまったような感はあります。

バク

 野球編ではありますが、今回のバクのモチーフは「バッグ」であり、野球とは直接関係ないものでした。なお、バクと言えば夢を喰らうというイメージでほぼ固定されていますが、今回のバクもそのままの能力を再現するキャラクターでしたね。

 ただ、オリジナルの獏は「睡眠中に見る夢」を食べる妖怪であり、「将来の夢」を食べる今回のバクは、それとは全く性質を異にするものです。字面(あるいは洒落)で性質の決定が行われた例の典型ですね。

 将来の夢を奪われる事で、奪われた人間はアイデンティティを失ってしまう...というのが今回の流れとなり、レギュラー内では、いわゆる「忍者バカ」として成立している天晴が、その犠牲となります。天晴に関しては後述という事で。

 ちなみに、野球が題材となる話では、基本的に野球モチーフの怪人が登場する...というのが戦隊のパターンでした。「ゴレンジャー」の野球仮面、「ジャッカー」のデビルボール、「バトルフィーバー」のスポーツ怪人、「デンジマン」のデッドボーラー、「サンバルカン」のヤキュウモンガーと、特に初期では毎年のように登場。蛇足ながら、「ダイナマン」に至っては、戦隊自体が野球モチーフで企画が進められていたという経緯があります。戦隊初期の頃に比べると、野球のテレビ中継も激減しており、時代は移ろいだわけです。今回のバクが野球と殆ど関係ないモチーフである事にも、時代の変化を感じてしまいますね。

 まあ、私自身は基本的に、野球に対してシンパシーのない人間なので、この辺にはあまり感慨がないのですが...(笑)。

有明の方

 十六夜九衛門が復活させた新幹部は、牙鬼幻月の奥方たる「有明の方」。奥方という設定に、他の幹部との格の違いが垣間見られます。

 幹部連中のパターンに倣い、割れた能面がモチーフ。全体的なデザインはおどろおどろしさよりも優雅さを強調したもので、特に着物の配置が目立った特徴となっています。能面ってある意味恐ろしいですよね。特に「ウルトラマンA」の女ヤプールの象徴として使用された回はトラウマ級です。

 声の担当は三石琴乃さん。言わずと知れたセーラームーンですが、最近では野比玉子さん(要するにのび太のママ)の快演が特に目立ったお仕事ではないかと思います。三石さんはロボットアニメ等でも数々のシリアスな役柄を演じておられますが、個人的に、のび太のママとか上尾先生(「クレヨンしんちゃん」)といった、真面目さが自然にコミカルへと移行するキャラクターがピッタリだと感じます。

 今回の有明の方へのキャスティングは、様々な個性をハイブリッドしたような非常に難しい役柄を成立させるにあたり、正に適任といった処。可愛らしい芝居も悪辣な芝居も難なくこなす技量をお持ちなので、期待度は高いですね。

 なお、晦正影が蛾眉雷蔵と交代で登場したのに対し、有明の方は退場者のないまま登場しているので、1クール毎の幹部交代という予想は見事に外れました(笑)。

北別府浩二

 今回のメインゲスト、可愛い野球少年です。

 野球は技量的にシンプルなスポーツでありながら、結構ごまかしが効かないというか、経験者とそうでない者の差がビジュアルに出まくるんですが、北別府浩二を演じた藤本飛龍くんはなかなかサマになってました。彼自身はサッカー少年という事らしいですが、運動神経が良いんでしょうね。

 役どころとしては、うだつの上がらないピッチャーで、バクに夢を食われるという、野球編としては直球ど真ん中な設定。そんな彼に、キンジが多少強引に関わっていく事により、ストーリーが転がっていきます。強引に転がした先に待っていたのは、野球少年である事を忘れてしまった浩二に、勝負を決する投球を任せるという展開でした。この辺り、熱いし燃える展開ではあるのですが、やっぱりテーマがぼやけてしまっているんですよね。

 このくだりが示したかったのは、夢が無尽蔵であるという事なのか、それとも夢がなくても身体が楽しさ(?)を覚えているという事なのか、よく分かりません。また、浩二は練習してもあまり上手くならないピッチャーだったにも関わらず、大一番で怪人をも翻弄するような投球を見せるというのは、「基礎を徹底的に練習していたから」という理由があるにしろ、やや予定調和に過ぎる展開だったように思います。

 余談ながら、この「北別府浩二」という名前、恐らく元カープの北別府学さんと山本浩二さんから採られているのではないかと思います。天晴が着たユニフォームも何となくカープっぽかったですし、制作陣の趣味が反映されたんでしょうね(笑)。

見習い忍者・キンジ

 今回はキンジが見習いとして正式にそのポジションを確立する事となりました。専用の忍び装束も登場し、いよいよ戦隊の一員という雰囲気が強くなりましたね。

 興味深いのは、キンジの忍術が我流であり、強い戦力を持ちながら実は基礎が出来ていないという設定でしょう。スターニンジャーの登場時のあの強さは、基礎をすっ飛ばして上級忍法を会得していたからこその強さで、実は常に足下が揺らいでいたわけです。その点では、キンジの心の有り様にも通じる処があって納得出来ますね。また、常に基礎を練習していたと思しき野球少年の浩二と、巧い対比を為していたと見做す事も出来ます。ただ、その辺は前述の通り消化不良でしたが。

 キンジが戦隊の一員になった事で、今回の彼の動きは正に戦隊キャラの王道たる「ヒーローのお兄さん」を体現していました。即ち、キンジの強烈な個性のスポイルをも意味していたわけですが、それはそれで、彼の爽やかなキャラクター性が巧く発揮されていたので良かったのではないでしょうか。

天晴

 もう一人のメインの犠牲者たる天晴。

 天晴からラストニンジャになる夢を取ったら何が残るか...という実験精神を発揮してくれるのかと思いきや、何と職探しを始めるという生真面目さを描き、意外なまでに真っ当な精神を持った青年が登場したので驚きました(笑)。勿論、キャラクターの根底が変わっていないので、天晴は天晴なのですが、忍者を取ったら何も残らないというステレオタイプなキャラクターではなかった...というのがとにかく意外だったわけです。

 実際には、天晴から忍者を取り上げた際の、キャラクターのギャップに面白さを感じるというシーンは殆どなく、最終的には忍術を普通に使えていたりするので、天晴をこの状況に追い込んだのは、単に野球のユニフォームを着せたかったからだという乱暴な論も成立してしまいます。シチュエーション的に話の面白さを追求出来なかったので、ビジュアルの面白さを取った...という事ですね。

 ただ、さすが西川さんは野球経験者という事もあって、野球のシーンはスタイリッシュにこなしていました。他では薄着のシーンも多かったのですが、スポーティなスタイルを披露していて、天晴の勘の良さや身体能力の高さをビジュアル面で支えている事がよく分かりましたね。

雑感

 今回はビジュアルの奇抜さにしては、それほど突き抜けた感覚のないエピソードでしたが、やはり作りがオーソドックスだったのでしょう。アイデンティティを奪われてもキャラクター性が変わらない天晴や、エキセントリックさが抜けたキンジといった、キャラクター由来の地味さがそれに拍車をかけていたように思います。全員が変身前の姿で野球をプレーするとか、そういったシーンも見てみたかったですね。

 次回は、スーパー合体編。この題材では、チームワークとか連携の確かさ等がテーマとなる事が多いのですが、次回も例外なく八雲とキンジの関係にスポットを当てるようですね。個性的な欧米コンビなので楽しみです。