忍びの5「宇宙忍者 UFOマル!」

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 少し別路線に寄り道した後、順当なキャラクター紹介編に戻って来ました。今回は霞がメイン。

 予告の雰囲気からは、大学生と忍者の両立に悩む、ややウェットな感覚が垣間見えていたのですが、いざオンエアを目の当たりにすると、霞のマイペース振りがドライに炸裂する意外な展開に。周囲のキャラクターの動きはほぼギャグ編のセオリーで動いており、明るく楽しい雰囲気で彩られていました。

ウンガイキョウ

 雲外鏡はいわゆる付喪神で、古い物品が妖怪化するというパターンの代表格の一つ。物品に魂が宿ったものという意味では、付喪神と「ニンニンジャー」における妖怪のコンセプトには近いものがあります。

 今回は鏡ではなくパラボラアンテナをモチーフにしていて、能力に直結するモチーフ、敢えてミスマッチを狙ったモチーフに続いて、形状が近似しているモチーフが登場した事になります。

 能力としては鏡ならではという事なのか、空中に虚像を投影するというもので、その原理が電波を用いたものであるというエクスキューズには、アンテナというモチーフへの配慮も伺えます。「虚像を投影する敵」は一定の需要があって正に頻出パターンなのですが、私個人が最も強い印象を抱いているのは、「ウルトラマンA」のヒッポリト星人ですね。

 声の担当はチョーさん。鏡の裏表を利用したと思しき見事な「表の顔」、「裏の顔」を、さすがの演技力で声の面でも存分に表現されています。

 巨大戦では衛星アンテナである事を利用し、舞台を宇宙へと移して行きます。今回は連想ゲームのような展開がスピーディで、ツッコミを入れられる前に連想で納得させてしまう構成が巧かったですね。

蛾眉雷蔵

 冒頭から敵側の話ばかりしてしまいますが、今回、天晴と蛾眉雷蔵の直接対決がまたフィーチュアされるのかと思わせておきながら、完全にギャグ化された事には驚いてしまいました。

 尺の面もあるとは思いますが、天晴に軸足が移る事によって霞と八雲の担っている重心がブレてしまうのは自明なので、この措置は構造的に正しかったと思います。また、ギャグテイストながら蛾眉雷蔵の律儀な面が見えてきて、彼のキャラクター性が一気に掘り下げられた感すらもあります。「ニンニンジャー」に宿敵や因縁といった概念を導入するにあたって、ド直球にやってしまうと折角の派手で明るい雰囲気に影を落としかねないので、ある程度ギャグテイストを盛り込むのは良いと思っています。勿論、シリーズ終盤になるにつれて、そういった「影」の部分をフィーチュアするのは大いにアリですが。

 そんなわけで、すっかり十六夜九衛門に体良くあしらわれる蛾眉雷蔵。「戦馬鹿」との形容も微笑ましいですが、それでも天晴が容易に超えられない実力者という面もやはり強く、魅力的に映ります。

好天

 ラストニンジャ=好天がいかに凄い人物かという事を紹介する際、殆どギャグとして挿入された「宇宙人との交信」シーン。まさかそれが伏線になっていたとは(笑)!

 宇宙人との交信については、息子である旋風も信用していないヨタ話として扱われていますが、霞はそれを完全に信用している様子。それが霞の科学者への憧れを生んでいるという、ちょっとイイ話も盛り込まれ、更にはその交信によって得た宇宙人のテクノロジーによってオトモ忍が開発されたという、妙にロジカルな設定まで披露され...何だか色々凄いです。

 また、オトモ忍のモチーフについての統一性のなさは、孫達の嗜好に合わせて好天が作ったからだという理由付けまで登場していて、一気に世界観の整合性を稼いできた感があります。オーバーテクノロジーの賜物である事により、現代という舞台設定上でも荒唐無稽なガジェットが動き回れる余地を作ってしまいました。なかなかやりますねぇ。

 エピローグでは旋風より、孫達に色々与えすぎだと指摘されますが、当の好天は「甘やかすのはここまでだ」という意味深な言葉を発していました。今後は初期編に見られたパターンに、どう変化を付けてくるのか楽しみになってきます。

 ちなみに、「宇宙人と交信する忍者」という設定は、好天が初出ではなく、「ダイナマン」のダイナブラック=星川竜という嚆矢が居ます。科学と忍術の組み合わせという意味では、霞の大先輩でもあるわけですね。いやぁ、凄い人物だ...。

霞と八雲

 これまでの霞は、他の面々をさり気なくサポートしたり、助言を与えたりするお姉さん的な存在でしたが、ようやく今回、その本来の姿を披露する事になりました。

 今回メインとなるに辺り、霞にも葛藤が与えられるのですが、それは表向き「学業と忍者の両立」でした。少なくとも前半は(笑)。八雲はそれを額面通りに受け取った為、画面上で繰り広げられるドラマ自体もそのテーマで牽引されていきます。いわば八雲はミスリード役といった処。

 この葛藤が巧く作用、霞が度々ニンニンジャーとしての行動に遅れを生じさせているというシーンを生み、ビジュアルから学業との両立が難しそうだと納得させられます。そこに、それを心配する八雲が絡んできて、テーマはより深刻度を増していくのですが、後半でその深刻さは一気に裏返されます。正に忍術の定番「どんでん返し」であるが如く。

 霞がちょっと悩んでいた事項とは、実は「学業と忍者の両立」ではなく、「ガジェット製作と睡眠の両立」でした。ウンガイキョウに初遭遇した際に既にその特性に気付いており、睡眠時間を削って対抗ガジェットを作っていたわけです。ウンガイキョウとの初遭遇シーンでは、意味ありげな視線をアップで映すカットがありましたから、何かあるな...とは思っていましたが、まさかガジェットを作っていたとは。

 八雲の心配をサラッとかわして見事な対抗策を提示して見せる霞。頼れる姉貴像という従来のイメージに、マイペースで真面目な努力家という面が付加されると共に、普段は天然っぽい振る舞いで飄々としている為周囲に本心を悟られない、ちょっと小悪魔的な面まで感じられるようになりました。この小悪魔的な面は、山谷さんが歴任してきた役柄にインスパイアされた部分が少なからずあるように思いますが、どうなのでしょうか。

 ともあれ、霞はこれで科学を駆使して戦う忍者という、五人の中でも特殊なポジションを獲得しましたね。魔法を利する忍者である八雲とは正に点対称に位置に座するわけで、八雲と共に何でもありというテーマを体現する存在となったわけです。

 なお、メイン回の扱いとしては、忍術で郵便ポストに化けたり、単独変身シーンがフィーチュアされたり、天晴と共にスピード感溢れる空中戦に参加したりと、かなり充実しており、これまでで最も主役回らしいエピソードになっていたのではないかと思います。出来ればUFOマルを操って、真ん中に座って欲しかった気もしますが...。

忍タリティ

 UFOマル登場となるきっかけは、例によって忍タリティの高まりによるものでした。今回の忍タリティは、諦めずに物事を成し遂げるという精神にあります。それは霞の場合、睡眠時間を犠牲にしてでもガジェットを作り上げたという頑張りだった為、ありがちな根性モノとはかなり方向性が異なっていて、汗の臭いが全く感じられない特異な爽やかさを醸し出していました。

 英語は...残念ながら私の狭小なボキャブラリーからは出て来ませんでした(笑)。持続性(sustainability)とか、不屈(indomitability)とか??

巨大戦

 今回も新たなオトモ忍が登場。UFOマルと名付けられたそれは、忍術、魔法、科学、どれにも属さないモチーフで、こちらも「何でもあり」です。

 事前に、ちゃんと劇中でシノビマルを活躍させて「地に足の着いた」感覚を提示しているのがミソ。しかも巨大戦序盤では、空中戦でシュリケンジンドラゴを選択するが、宇宙までは対応出来ないという、やはり日常空間をあまり飛び越えない描写に。なので、シュリケンジンUFOとなった際の「空間の超越」が充分なインパクトを放つ事になります。

 決戦シーンは月面が舞台となり、その雰囲気たっぷりのセットで戦う様は、漫画的な魅力だけでなくSF映画の重厚感すらも感じさせてくれました。ガジェットが何でもありなら、舞台さえも何でもありだという、特撮班の悪ノリっぷりがすこぶる良い方向に働いていると思います。また、50〜60年代の宇宙モノを思わせる効果音も素晴らしいものでした。

雑感

 今回は、霞の人となりを描くという点で充分成功していると思います。山谷さんの持ち味だと私が勝手に思っているのですが、彼女の細かい表情の変化を的確に捉えるカットが多く、何かを熟考している事がちゃんと伝わるんですよね。

 ついでに八雲が少々心配性で、しかもエピローグでもう心配する事自体が馬鹿馬鹿しいと気付いてしまうオチまであり、対極にある二人のキャラクター性が掘り下げられました。

 天晴は相変わらず高い能力を発揮していますが、サポートを得る事でより良い結果が出せるというパターンも見えてきました。この人物配置は巧い処ですね。追加戦士によって引っ掻き回されるまで、このような配置を強固にしておいて欲しいですね。

 次週は恒例になりつつあるライダーとのコラボスペシャル。番外編として楽しむべきですが、意外に本編との連続性があったりして侮れないんですよね。