第11駅「闇の皇帝」

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 ゴールデンウィーク、絶好の行楽日とあって、恐らく視聴率が下落する期間。そこに当たり障りのない内容のエピソードを投入するのではなく、敢えて現時点の最重要人物と言うべきキャラクターを投入して来る出し惜しみのなさ!

 しかも、意表を突いた展開で見る者を翻弄し、先を全く読ませない筋運びの見事さには驚く事必至。1クールではオーソドックスなストーリーテリングで安定したムードを創出していた「トッキュウジャー」ですが、本エピソードでかなり方向転換した印象すら抱かせます。

 今回登場したキーキャラクターは、闇の皇帝ゼット。故に、今回は構造的にシャドーラインがその主導権を握っています。

 この「闇の皇帝」は、序盤から何度も言及されてきた「謎のボス」でしたが、意外な事に1クール消化を待たずに登場し、しかもスーツキャラクターのみで構成されるシャドーラインの中にあって、敢えて素面のキャストを採用するという大胆さ。これには驚きました。

 近年...というより、戦隊シリーズの殆どの悪の組織が、スーツキャラクターで構成されており、特にボスキャラが素面である事自体が少ないのは、ご存知の通り。面白いのは、「ゴレンジャー」が今回と同様、ボスのみ素面。続く「ジャッカー」も実質的に同様でした。以後、素面のボスは「デンジマン」、「バイオマン」、「チェンジマン」、「ライブマン」、「ファイブマン」、「ジェットマン」、「ジュウレンジャー」、「ダイレンジャー」、「メガレンジャー」、「ゲキレンジャー」、「ゴーバスターズ」となり、シリーズ全体で1/3にも満たない数です。

 この中で、「デンジマン」、「バイオマン」、「ライブマン」、「ジェットマン」、「ダイレンジャー」に関しては、敵組織の人物の大部分が素面キャストで、「ゴーバスターズ」に関しては実質素面二人体制、「ゲキレンジャー」は異端中の異端で、実質素面二人体制であるのに加えて、主演の構成員扱いでした。

 今回は、ゴシックホラー系で統一されたデザインの中で、いきなり「造形物ではない衣装」を着た人間キャラクターが「途中から」出現した事で、上に挙げた例とは異なるインパクトがありました。先々、人間態ではない姿が登場するのかも知れませんが、人間態でもヘアスタイルに特徴があったりと、既に存在感を与える為の工夫は抜群の効果を発揮しています。

 さらに、パターン破りを企図してか、仰々しい登場シーンでは肝心の本人が登場しないという肩透かしを食らわせ、それより前のシーンで「それらしい人物のチラ見せ」をしてしまうという、一筋縄ではいかない演出の素晴らしさ。ライトと運命的な邂逅(本当に偶然なのが「運命の悪戯」っぽい)を果たし、「闇は飽きた」というセリフから、この人物こそが闇の皇帝なのだと薄々感じられる辺り、スタティックな中に見えるテンションの高さも抜群。「闇の皇帝」という肩書きからすれば、闇至上主義的と言いますか、「この世を闇で覆い尽くせー!」といった性格だという予想しか成り立ちませんでしたが、あろう事か闇に飽き、輝き(キラキラと呼称)に俄然興味を示しているという「ズラし」が非常に面白く、興味深いのです。故に、そこにおどろおどろしい感覚はなく、肩書きとのギャップから生ずる違和感が、ゼットのキャラクター性の特徴ともなっています。

 そしてやはり、ゼット役での登板となった大口兼悟さんが良い!

 東映特撮系作品では、「仮面ライダーオーズ&ダブル」に出演されていたそうで(未見なのです...)。さらにそれ以前には、「仮面ライダー555」への出演歴があります。雰囲気的には、「ギャバン Type-G」の石垣佑磨さんをややソフトにした感じ。なかなかの眼力を持っていて、ライトと対峙するシーンにおける印象が鮮烈に感じられます。

 周囲の強烈なスーツキャラクターの中にあって、それを食ってしまうような存在感が、ゼットには求められたのだと思いますが、その狙いは初登場の今回の時点で達成されているのではないでしょうか。

 ところで、シャドーラインをメインに据えただけあって、シャドーライン勢の格好良さたるや抜群。「強さを見せる」という命題にやや斜めから挑んだ秀逸な映像となっていました。

 シュバルツは、以前トッキュウジャーと手合わせしていますが、今回も腰の据わったパワフルな武術を全面的に展開。そのアクションから、生真面目なキャラクターが透けて見えるかのような素晴らしいシーンを創出しています。

 「外」へ初めて出る事となったのは、ネロ男爵、ノア夫人、そしてグリッタ嬢。その内、グリッタ嬢は戦闘には参加せず、何と皇帝から逃れる為に駅のホームに一人佇んでいるという仰天シュールな絵面で登場します。

 ネロ男爵は、福山潤さんのクールなイメージから離れた激昂シーンが用意されていて、まずはそれがジャブとして効いています。これで皇帝がいかに恐ろしい存在かを示します。アクションは、刃の付いたステッキを効果的に用いた優雅なもの。計算し尽くされた動きがカット一つずつに「キメ」として存在し、その「キメ」の一つ一つがヒーローにダメージを与えるという、シビれる格好良さです。

 ノア夫人は、その風貌にマッチした動きを随所に取り入れた、これまた秀逸なアクションを披露。傘を効果的に使用した防御と攻撃の妙味が、殆ど「グリッタ嬢の保護者」という面しか見せてこなかったノア夫人に新たな魅力を付加していました。

 この三幹部のアクションは、総じて「貴族的」な記号を強く感じさせていて、シャドーラインのモチーフに忠実な描写となっています。何となく、キャラクター作りに関する余裕すら感じさせ、制作の自信が現れているようです。

 巨大戦は、クライナーロボを擁した乱戦の様相を見せ、ライト発案のトリッキーな戦法が光るものでした。ミニチュアセットが精緻で、市街地戦のリアルさが巧みに演出されていました。この市街地戦がリアルであった事により、エンディングでの「引き」がより戦慄を伴うものになったのではないでしょうか。

 その「引き」とは、駅のホームにおけるいつものような光景で繰り広げられる仕掛けで、ライト以外の面々がトッキュウジャーである事を忘れてしまうというもの。仕掛け自体はオーソドックスなものですが、次回、どのような展開を迎えるのか、意外性に期待したいですね。