第16駅「危険な臨時烈車」

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 ハンマーシャドー登場を引っ張り、しかもシュバルツが何か企んでいるとあって、どうなる事かと思っていたら、意外に普通のお話でした。

 また、子供をメインに据えて展開するのかと思いきや、実はその姉がメインだというズラシっぷりもなかなか。さらに、カグラが大活躍するのかと思わせておきつつ、実はそこまで活躍しない(=一番の強みであるなりきりが武器にならない)という意外性も。

 シチュエーションがめまぐるしく変わっていくので、どちらかと言うと舞台や状況の変化を楽しむ作風であり、登場人物に感情移入して物語に入り込むタイプのエピソードとはちょっと異なります。これまでの「トッキュウジャー」からすると、ちょっと珍しい触感ではないかと思います。


 今回、最も目を惹くのは、やはり場面転換の唐突さによる異空間の演出でしょう。それは即ち「魔空空間」的手法であると言えるわけで、今回は特にコミカルだが危機的状況という面が強調されていました。

 客車の出入り口をくぐると、そこには客車ならではの整然たる座席の列があるわけですが、意外にもクライナーの内装はやや暗めながらもこざっぱりとしていて、レインボーラインの烈車とあまり質感が変わらないのが面白い処です。もしかすると、両者とも製造元は同じだったりして、アナハイム・エレクトロニクスのような背後関係が...とか、ないですかね(笑)。と言うのも、今回のエピローグ後、車掌さんとチケット君が「上の方から期待されている」という内容の会話をしているシーンがあり、レインボーラインにも上層部が存在する事を初めて示唆したからです。鉄道をモチーフにしている以上、そこに企業体の存在が当然の如く見え隠れするわけで、実はレインボーラインとシャドーラインは単なる善悪の関係以上に、利害関係で対立している可能性もあるのです。

 深読みは置いといて、話を元に戻します。

 続いて別の車両に移ると、今度は突如アスレチックプールが! 客車の規模からすると、絶対に有り得ない広さだというのが、このシーンの肝です。魔空空間やその手法から派生した場面転換で好んで用いられるのが、「扉の向こうに別世界がある」というパターン。今回もそれが有効に活用されていて、違和感、意外性、鮮烈さといった面で効果を上げています。

 今回は更に、異空間ではなくてハンマーシャドーが具現化した舞台という但し書きが付いている為、カットによってはスローモーションを取り入れて「夢」を強調した部分があったものの、全体的には「実際に体験している」という感覚でまとめられていました。わざわざトカッチに列車の走行音を確かめさせ、あくまで車両の中で実際に起きている事を説明させる辺り、徹底しています。

 さらに別の車両に移ると、それぞれの子供達が夢見ている遊びに関係した舞台が次々と登場。特に今回メインの子供キャラクターであるカケルが訪れる科学館は、当たり前ですが相応のロケーションによって雰囲気は抜群。事前にプールの件でここが車両内部である事を周知徹底している為、ここでもちゃんと車両内であると頭が理解する辺り、見事です。

 別の車両では、今度はライト、ミオ、ヒカリの三人が食事(?)に興じている様子が。ここでの三人の嬉しそうな表情は必見。今回はライトの健胃っぷりが殊更強調されて、これまでやや薄味だった「大食漢のライト」というイメージが大いに前面に出て来ました。戦隊におけるこういったステレオタイプな描写は、あまりしつこいと嫌われますが、この程度ならば手放しで歓迎出来ると思います。

 なお、エピローグで、この食事シーンが「肉体的には」幻であった事を示していましたが、それでも精神(脳)的にはすこぶる高い現実感を伴っていたようであり、ちょっと考えてみるとハンマーシャドーの能力はかなり恐ろしいものであった事が窺われます。

 一方、トカッチとカグラは、クライナーに飛び乗った際の衝撃で気を失い、それが夢列車に囚われなかった原因となっています。この二人がメインを張って事件解決に奮闘していく様子は、妙に頼りなくて微笑ましいのですが、逆にライト、ミオ、ヒカリが戦闘に向いたキャラクターである事を印象付ける結果にもなっています。とは言え、今回はカグラも素面アクションが盛り込まれており、変身後の懸命にシュバルツへと立ち向かっていく様子と合わせて、元々戦いという行為自体に不向きなカグラが、少し成長しているのを窺わせました。

 カグラは文字通り奮闘という感じでしたが、トカッチは状況や次に何をするかといった判断を担当し、彼の生真面目さと能力を垣間見る事が出来ました。クライマックスでポリスレッシャーを駆って登場する格好良さと言ったら...。このエピソードで、カグラもトカッチも「株を上げた」という印象です。

 また、カグラに関してはもう一つ面白いトピックがあり、それはハリセンで敵を叩きのめすという勝利のイマジネーションでした。このイマジネーションの珍妙さは、ハンマーシャドーにとどめを刺す際に遺憾なく発揮されましたが、何とその前に、ライト達を正気に戻すきっかけとして働くのです。

 この一件は、カグラの卓抜したイマジネーションの力が、ハンマーシャドーの具現化能力に作用して半実体化し、ライト達の頭をハリセンで打つというシーンとして登場します。このシーンも実に楽しいのですが、カグラが持つイマジネーションの空恐ろしさを描いたシーンだとも言えるのではないでしょうか。以前の暴走状態とは全く違う視点で、「敵の能力にまで作用する」カグラの力が描かれた事により、今後の彼女のポジションに影響するのではないかと、ちょっと考えてしまいます。

 最後に、カケルの姉であるアオイについて。

 日々に追われてイマジネーションをなくしてしまった少女という設定ですが、大人と子供の境界上にあるキャラクターを登場させた事は意義深いと思います。アオイの見た目は「年の離れたカケルのお姉ちゃん」なので、当初は烈車が見えなくてもあまり疑問に思わせない処が巧い。ただ、多分高校生くらいでしょうから、「夢」は持っていて欲しいと感じさせる面もある。この「夢」がイマジネーションと同種のものであるかどうかは、恐らく「否」なのですが、夢の実現を想像するという意味でのイマジネーションは、確実に「トッキュウジャー」が標榜するイマジネーションと重なります。よって、今回アオイが取り戻したイマジネーションは、彼女の明るい未来を示唆するに充分な説得力を持ち、カケルとの関係も今よりもっと良好になるのではないかと思わせてくれます。

 ちなみに、子供達がアオイの目視出来ないクライナーに続々と乗り込んでしまうシーンは、神隠しのようで本当に怖いシーンでした。オカルトな主張をする気は毛頭ありませんが、大人には見えない子供の世界というのは、多分確実にあるんだろうな...というのが実際に子を持つ者としての実感です。なので、こういうシーンがあると、本当にゾッとしてしまうわけです。困ったもんですね(笑)。

 次回はいよいよトッキュウ6号が登場! 関根さんが「ホハァァァァーッ」と千葉真一さんの物真似を披露してくれましたが、次回はどうなるのでしょうか(笑)。