第18駅「君の名を呼べば」

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 虹野明、ここに誕生す。

 今回は雑誌バレ等を意図的に排除して見ていたので、まさかザラムの名を捨てるとは思いもよらずビックリ。単に「新しい名前を手に入れて生まれ変わりました」というだけのお気楽な禊ぎを擁した展開ではなく、改名しようがしまいが彼の中身は何にも変わらないという辺りも実に面白い処です。

 その上、名前をメインテーマに据える為に、わざわざシャドー怪人に名前に関する能力を与える等、その組み立ての徹底振りも素晴らしく、軽妙な作風でありながら重厚感がありました。

 今回は、直感系のライトと熟考系のヒカリが、ザラムを巡って対立するという、「トッキュウジャー」初期の少しザラついた感覚を取り戻しています。

 ライトはザラムとの交流を経て、彼がシャドーラインを完全に抜け、さらにザラムという名前を捨て去り、過去の自分と決別している事を確信しており、前回、全く躊躇いなくアプリチェンジャーを手渡した行為の根拠を明確にしています。

 一方ヒカリの方はと言うと、ザラムがシャドーラインを「裏切った」という事は、またレインボーラインを裏切らないとも限らないという、至極現実的な意見を述べるのです。裏切り者は所詮裏切り者であるとの論は、「トッキュウジャー」のカラーからすれば実に辛辣な意見ですが、イマジネーション、直感といった、現実世界ではある意味不確かとなる概念が横溢する世界観の中で、カウンターとなるポリシーが存在する事は、むしろ歓迎すべき事だと思います。

 結局ライトは、ヒカリの意見に少々立腹しつつも、それ以降は特に気にする事もなくライトのまま突っ走り、それが彼の「直進性能」を遺憾なく表現していました。特に名前を呼ばれると強烈な頭痛に苦しめられるという金輪に対し、「本当の名前はライトじゃない」と嘯いて平静を装う辺りは、彼の臨機応変・即応能力の凄さに格好良さすら感じられ、いわゆるレッドヒーローのポジションたる風格を見せてくれたように思います。

 そしてヒカリは、ライトの「妄信・猛進」振りに呆れながらも、「ライトを疑う事を諦める」事で、ザラムへの疑いも払拭。このスライド論法的な解決は実にヒカリらしいものだと言えるでしょう。その上で、ザラムに取り付けられた金輪を外す為(!)に新しい名前=虹野明を与えるという解答を導き出し、仲間の協力を得てそれを実行してみせました。

 面白いのは、ヒカリがザラムの名を捨てさせる手助けをしたのではないという部分。

 ザラムはとっくにその名前を捨て去っており、その証拠に当初はリングシャドーの金輪が効力を発揮しませんでした。つまり、ライトの論は完全に正しかったわけです。ところが、ゼットの戯れで強大な闇の力の洗礼を受けてからは、「シャドーラインのザラム」に戻ってしまいます。要するに、ヒカリの論もある部分では正しかったわけです。ゼットの力の凄まじさを表現すると共に、ライトとヒカリの対立構造をシチュエーションにまで投影してしまいました。ポリシーや概念の対立をキャラクターの芝居だけで表現するのではなく、もっと俯瞰的なドラマツルギーに踏み込む辺りが凄いですね。

 最近やや影の薄いゼットを引っ張り出し、闇の力を行使するのはあくまで自分の好奇心に基づいてのみだという事を強調し、そして相変わらず闇の中でしか生きられない物悲しさを描く。描写が奮っています。

 さて、自らの名を捨て虹野明となるザラム。彼の表現は実に明快そのものとなっています。

 まず、ザラムの名を捨てたという証左に降雨の有無が表現として使われています。前回登場した際は、人間の姿をしている際に常に雨が降っており、トッキュウ6号となった時に晴天となり虹を出現させました。今回は、ゼットの闇の力に当てられるまでは雨が降っておらず、この事から、前回トッキュウ6号となった時にザラムの名を捨てる事にしたのでは、という解釈が成り立ちます。

 また、いくら名を捨てたとしても、やはり彼の「変わり者」的なポジションは守られています。名乗りポーズの際に決めきらないお茶目なポージングを披露して爆笑させてくれたり、「死に場所を見つける」というポリシーが「人の話を聞いていない」というギャグに完全に転化されていたりで、こちらも実に可笑しい。オリジンが敵側でありながら、陰性の部分が殆ど感じられない(ように作ってある)希有なキャラクターとして、トッキュウ6号=虹野明は存在する事となりました。

 一人だけ「虹野明」という漢字表記の名前である処は、終盤というか土壇場でのライト達の本名の登場を期待させてくれますし、現時点では、やはり異質な属性を持たせたいという意図が感じられます。6人のトッキュウジャーではなく、5人+1人のトッキュウジャーというスタンスになるのではないかと思われるわけです。これは、多人数を巻き込んで一緒くたにして盛り上がった前作「キョウリュウジャー」とはガラリと趣を変えていて、追加戦士の原点に立ち戻ったような感覚がありますね。

 もう一つ、明に関しては地味ながらも重要なトピックがあります。

 それはドリルレッシャーの存在。

 ただの烈車ではありません。「元はドリルクライナーだった」のです。

 先日、レインボーラインとシャドーラインを企業的な観点で深読み言及しましたが、今回の件でクライナーとレッシャーの互換性が明確になってしまいました。要するに、用地買収に躍起になるブラックなシャドーラインと、それを阻止する人道的で明るい社風のレインボーラインという対立構造の中で、動いている車両の基盤技術は共通のものを使用しているという事実。正にアナハイムエレクトロニクスなわけでして(笑)。そのうち、「ウチの社員を派遣しますわ」とか、「大好きな車掌さんの為に命懸けで修理いたしますわ」とか、「対立が激化した方が儲かるから技術を横流しするべ」とか、「出資者に逆らうヤツは修正してやる」とか、あるんじゃないかなぁ...いや、ないか(笑)。

 まぁ、そんな妄想はさておくとして、明の加入によってしばらく5人が引っ掻き回されるのは必至なので、キャラクターを捉え直す好機となります。次回はトカッチにスポットが当たるようで。彼の真面目キャラに期待です。