第21駅「花嫁は逃走中」

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 ギャグ回の定番である「入れ替わり譚」を、重要回に放り込んで築き上げた傑作エピソード。

 ビジュアル面では、素面での「乗り換え」を存分に楽しみつつ、グリッタ嬢がどうなってしまうのか...という、ドライヴのかかったドラマをも楽しむ事が出来ます。

 グリッタ嬢のくだり、そしてミオが垣間見た記憶の断片は次回へと引っ張られる事になりますが、入れ替わり譚自体は今回でちゃんと完結しているので、当然ながら食い足りないといった感は全くありません。

 まずは、今回のメインビジュアルである「素面での乗り換え」を追ってみます。

 メイン中のメインはミオとグリッタ嬢の入れ替え。ストーリーにおいても最も重要なトピックであり、単なる入れ替えパニックではなく、動機や目的が明確なのは凄いと思います。

 注目は勿論、グリッタ嬢に成り切った梨里杏さんの演技。今回は声も人格に沿ったアフレコで処理がされている為、交代が非常に分かり易いのですが、勿論それだけではありません。まず目に入るのは入れ替え直後に嬉しくなって走り出すミオ(の姿をしたグリッタ嬢)。通常の「運動能力に長ける」設定を体現した凜々しい走りとは全く異なり、いわゆる「ブリッ子走り」が炸裂! そこに日髙さんの可愛すぎる笑い声が被さるので、最早無敵の可愛さ(笑)。

 スーツキャラであるグリッタ嬢の機微を素面で表現するのは、非常に難しい事だったと推察されますが、走り方以外の部分では多彩な表情を見せてくれた上、シュバルツのハンカチーフを両手で握りしめる仕草は、正にグリッタ嬢のもの。グリッタ嬢のスーツアクターは戦隊の生き字引とも形容される大ベテランの日下さんという事ですが、日下さんの表現する乙女心(!)を的確に掴んでいましたね。グリッタ嬢人間体なるものがあるとすれば、今回の一連の演技がマイルストーンになりそうです。

 一方で、感情移入しやすいキャラクターとして確立しつつあったグリッタ嬢が、ミオの姿になった途端に感情移入の障壁をやや高くしたのが面白い処。素面キャストの、それも梨里杏さんという豊かな表情を持つ役者が演じたとしても、やはりグリッタ嬢はあの醜怪かつ巨大なスーツがあってこそなのであり、そこに日髙さんの「乙女ボイス」が当たる事で生み出される凄まじいギャップに引き込まれていたのだと再確認出来ました。

 ライト、トカッチ、ヒカリの入れ替えも非常に完成度の高いものでした。互いの芝居を徹底的に研究したであろう事が窺われ、ちゃんとそれぞれのキャラクターに成り切れていたのが素晴らしいです。最終的に、ライトはトカッチが担当、トカッチはヒカリが担当、ヒカリはライトが担当となり、普段のキャラクターとはかなり乖離した性格を演じ分ける必要が生じていました。

 ライト役の志尊さんが担当したヒカリ役。ヒカリの斜に構えて上から視線を下ろす独特のポージングを完全再現しています。一発でヒカリだと分かる素晴らしい振る舞いで感心しました。実はその言動に最も特徴があるのもヒカリだという事が発見出来たり。また、細かい処ではヒカリよろしくけん玉を軽く操っていたのが凄い。猛練習したのか、それとも元々得意だったのか...。

 トカッチ役の平牧さんは、眼鏡を外してライトに成り切っています。トカッチというキャラクターは、コミカルなメンバー達の中でも際立ったコメディリリーフとしてその存在感を発揮していますが、そんなトカッチを演じる平牧さんがレッドを本気で演じたらどうなるか...という「if」を垣間見る事が出来ましたね。とは言え、ライト自体正当派のレッドではありませんし、意外と掴み処のないキャラクターなので、物凄く難しかったのではないかと思います。しかし、ちゃんとライトの直進精神を体現していましたし、何より先陣を切る平牧さんの格好良さたるや! 彼もまた、多才な役者だという事ですね。

 ヒカリ役の横浜さんは、最もビジュアル面で特徴的なトカッチを担当。ライト程掴み処がないわけではないが、実は細かい動きの積み重ねで成り立っているキャラクターだという事で、ヒカリ程分かり易くもないトカッチ。つまり、トカッチに成り切る為には、細かい動きや特徴的なセリフ回しを表現し続けなければならないわけですが、横浜さんはバッチリ達成していましたね。眼鏡という、これまたトカッチを象徴する小道具を得ると更にトカッチ化する辺り、トカッチのビジュアル戦略が成功している事の証左でしょう。ちなみに入れ替え当初、眼鏡がなくてもちゃんとトカッチに見えていたのは見事でした。

 なお、この入れ替え、シャボンシャドーによって別の効果が語られていて、入れ替わったままだと消耗し、やがて死を迎えるという「リミット」によるサスペンスも導入されていましたが、さすがにちょっと欲張りすぎたのか、あまり効果的ではなかったように思います。一応、ミオが消耗したまま最終決戦に臨む際、カグラにサポートを請うというポイントが設けられているので、そこに至るには必要な手順でした。けれども、ライト達にはあまり影響が出ていないように見受けられるし、グリッタ嬢にしてもそれ程ダメージはなさそうでしたから、単なる方便の域を出るものではないでしょう。

 今回は、ミオの記憶の断片や、グリッタ嬢のある種の危機、シャドーライン内部で交わされる謀略と駆け引きが濃く描かれる為、全体的には重苦しいトーンに支配されています。しかしながら、素面入れ替えに関するビジュアルが至極楽しいのと、変身後に至ってもコミカルに処理された視聴者への配慮(誰が誰なのかを「絵」で示す)によって、ガラリと明るめのトーンに変えてしまっています。そこに生まれる独特の雰囲気が、今回を特殊な回にしているようにも思えますね。

 その重いトーンを担うドラマ面、ミオがカグラに心配をかけまいと元気を装うという縦糸が通っています。

 カグラを敢えて入れ替えから外した意図はここにあって、ミオとグリッタ嬢をメインとしつつ、ドラマ面の柱はカグラが担っているわけです。ミオとしては、気を張りすぎて却って仲間に心配をかけた事(=仲間に自分の状態を預けられる程信頼していなかった事)を反省していますが、それはメンタルの問題。カグラの方はと言うと、ミオが頼ってきてもちゃんとフォローする自信がある程に、心身共成長している事を伺わせており、実はカグラの成長譚でもあったという話なのでした。

 今回のカグラのシーンは色々と突出した魅力を持っていて、特にグリッタ嬢(実はミオ)を連れて歩く街道ロケでは、長回しの上に遠くからのズームで撮るという凄い画になっており、二人の醸し出す違和感を強調しています。このロケはかなり恥ずかしかったのではないか...と想像してしまいました。

 シャドーラインの方にも言及しておくと、今回のメインを張るグリッタ嬢は、ゼットとの婚礼が遂に秒読み段階という設定になり、これまで視聴者の興味を引いてきた要素の一つがクライマックスとなります。グリッタ嬢の「味方」だと思われていたシュバルツはまさかの密告。ノア夫人が婚礼を急ぐ理由も、単なる権力欲ではないらしい事が分りますし、傍観を決め込んでいたように見えるネロ男爵も、遂にグリッタ嬢を狙い始め、ノア夫人と直接対決に至るというサスペンスフルな展開となりました。

 敵組織の内乱はクライマックスの定番ですが、まだシーズンの折り返しにすら到達していない時点で、これだけの仕掛けを投入してくるとあって、俄然興味を引かれるというものです。恐らくは、夏休み期に訪れるとされる「見過ごし」の防止策なのかなぁ、とは思いますが、面白いので手放しで歓迎です(笑)。

 次回は「女帝」なる文言が踊っていて、ただならぬ気配ですね。実に楽しみです。