第22駅「女帝の誕生」

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 ギャグ調だった前回とは打って変わってシリアスな雰囲気を横溢させた一大危機編。

 グリッタ嬢、まさかの女帝即位という展開は、中盤としてはあまりにも大きな仕掛けになっており、驚きを隠せません。そして、ミオが思い出した過去の断片をきっかけに、トッキュウジャー側にも自分たちの町との距離をグッと縮めるという、これまた急展開が待っていました。2クール目を締め括る(?)にあたって、当初の「引き」の多くを回収してしまうのかと面食らってしまいましたが、昨今の戦隊のこと、それ以上の展開が待っている事は疑いようがありません。

 前回、グリッタ嬢と入れ替わるというシチュエーションによって、ドラマの中心に立っていたミオでしたが、今回も五人の記憶の芯になる部分を思い出しているという意味で、やはり中心に立っています。

 女性のイエローキャラがドラマの中心に居るというパターンは、「バイオマン」の初期編から中盤にかけての展開が嚆矢でしょう。しかし、何と言っても「フラッシュマン」の終盤が強い印象を残します。終盤、主人公達の親探しが佳境に入った処で、セミレギュラーである時村博士が、実はイエローフラッシュ=サラの実父である事が判明し、しかも肉親が判明するのはサラのみであるという驚きの状況のまま物語は閉幕となります。この展開は、サラ役・中村容子さんのプロモーションの一種だったという説もありますが、本来はレッドが担うであろう展開をヒロインが演じる事によって、より叙情性と悲劇性が強調されており、終盤の敵内部抗争とも相俟ってすこぶる重厚なドラマとなっていたわけです。

 今回の展開には悲劇性があまり感じられないので、「フラッシュマン」程の重厚感があるわけではないのですが、聡明なミオのキャラクターによって記憶の信憑性が仲間の間で担保され、そこに各キャラクターならではの肉付けが為される事で記憶がどんどん確かになっていく様子は、明瞭でありながら叙情性も充分でした。

 興味深いのは、季節感の合致した「夏祭り」を持ってくるのではなく、祭りの時期をぼかした「星のお祭り」を持ってきた事でしょう。映像から察するに、いわゆる「冬服」である事や、オリオン座がはっきりと見えていた事から、季節はかなり冬に近いのではないかと思われます。これは勘ぐりですが、夏祭りだと映像的に謎解きの期間が限定されてしまうからではないでしょうか。つまりは、今回かなり「重大な記憶」に接近するものの、完全解決に至るわけではなく、さらなる「引き」が待っているという話です。恐らく。

 もう一つ面白いと感じたのは、記憶を一生懸命掘り起こすのではなく、お祭りのパンフレットをかき集めて、データ面から分析するシーンがある事。

 海沿いではない町のお祭りに関するパンフレットを眺めるライトにツッコミが入ったりと、これまでの情報をちゃんと反芻する辺りも段取りが良く、2クール目では少々影の薄かった「町探し」を巧く再確認していたと思います。

 今回叙情性を感じさせる部分は上記のみ。その後は、急展開に次ぐ急展開でレインボーラインを危機に畳み込んで行きます。

 筋は前後しますが、圧巻なのはシュバルツによる烈車乗っ取りでしょう。

 制御関係を掌握しているという理由もありますが、敢えて車掌さん達乗務員を手に掛けない辺り、その自信が現れていて格好良い事この上なく。重厚な低音ボイスで段取り良くトッキュウオーを完成させ(ここでのチケット君によるイヤイヤながらのアナウンスが実に可笑しい)、しかも他の二大ロボを相手に善戦する操縦技術の高さを見せつけます。

 ちなみに、何の迷いもなく操縦してみせる処を見ると、少々しつこいですが、やはりレインボーラインとシャドーラインは同規格に近い構造の車両を使っているのかな、と。まぁ、ロボ乗っ取りのエピソードは戦隊シリーズに数多あって、大体が躊躇なく操れてしまうので、今回も特に小難しい事を抜きにしているだけとも言えますが、何となく「トッキュウジャー」にはそういった理屈がすんなりと受容される雰囲気があるので、あながち的外れでもないと思います。

 この乗っ取り後の巨大戦は、いわゆる戦隊ロボ同士が戦う地獄絵図なのですが、トッキュウオーはちゃんとシュバルツが操っているように見える処が凄いんですよね。登場シーンではバラが舞い散り、必殺技もバンクをそのまま使うのではなく、シャドーライン仕様になっている等、細かい工夫が随所に見られます。あと、トッキュウオーのシンプルなシルエットには「形代」のような雰囲気があるのか、「憑依」が巧く実現するようですね。

 そしてもう一体、女帝グリッタが搭乗する白いクライナーが登場して大乱戦状態となります。今回の巨大戦は尺が長いにも関わらず、見る者を飽きさせない素晴らしいシーンに仕上がっていて、精緻なミニチュアと実景合成の妙味、炸裂するパイロテクニック、オープンセットをフル活用した巨大感の演出など、特撮ファンの見たい要素がてんこ盛り。「トッキュウジャー」では珍しい建造物破壊もこれでもかと挿入されていて、迫力はとんでもない事になっていました。

 やっぱり、巨大戦で危機感が演出されるのは、燃えてしまいますね。

 さて、シャドーライン側ですが、ノア夫人が持つという「結婚相手を飲み込む」という驚愕の能力を、グリッタ嬢も継承しているという「まさか」な設定により、ゼットを飲み込んでしまうという戦慄の展開が待っていました。これは全く予想出来ませんでしたね。以前、ハンマーシャドーが具現化したシュバルツを飲み込んでしまうという描写がありましたが、まさかあれが伏線だったとは...。

 このシーンの恐ろしい処は、ゼットの好む「キラキラ」を存分に発散させて気を惹き、一気に捉えるという猟奇性であり、「乙女」なグリッタ嬢の秘める「女の恐ろしさ」のようなものが垣間見られました。式典も凝った作り込みで荘厳。秘密結社の儀式のイメージを見るようなシーンの美しさは特筆すべきでしょう。

 女帝となったグリッタは、目が赤くなるという変化のみでパワーアップを表現していましたが、これは正解だったと思います。全く別のいかにも「女帝」然としたデザインも良いのですが、ゼットがこのまま退場を迎えるとは思えないので、敢えてグリッタ嬢のシルエットを崩さなかったのではないでしょうか。昔から、別形態に進化した幹部には死の臭いが付きまとっていますからねぇ。

 女帝への変化を最も如実に表現していたのは、やはり日髙さんの演技でしょう。グリッタ嬢の愛らしいソプラノから、女帝グリッタの妖艶かつ威厳のあるアルトへ。この変化には全く以てゾクゾクします。グリッタ嬢の可愛らしい声質に関しては、いわゆる「若手」の方でも存分に魅力を発揮出来るでしょうが、同じキャラクターが成長した様を的確に表現した上で、恐ろしささえ感じさせるという演技は、やはりベテランならではの素晴らしさであり、何故日髙さんがキャスティングされたのか、ここで納得してしまうわけです。

 一方で、ネロ男爵はゼットに吹き飛ばされるは、ノア夫人には嘲笑されるはで良い処なし。しかしながら、今これだけ貶められているという事は、後々とんでもない事をしでかすんだろうと思わせてくれます。

 シュバルツは、自らの軍人たる矜持を満たさんが為に、グリッタを利用してゼットの不在を画策していたんですね。ネロ男爵はグリッタ自体を亡き者にしようとしましたが、シュバルツはグリッタに危害を加える事なく自分が動きやすい状況を作り出す辺り、やはり紳士を装った策士なんですね。何となくグリッタ自体に同情の念は抱いていたようにも見受けられ、彼の魅力が更に増した印象です。

 来週はお休みという事で、次回は再来週のオンエア。危機のまま引っ張るとは、放映スケジュールの組み方も巧みですね!