第27駅「新たな力を」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 定番のパワーアップ編。前作「キョウリュウジャー」におけるレッドのみのパワーアップを今作も踏襲し、最強のイマジネーションを持つライトのみが使える可能性を秘めているという設定で、新ガジェットのハイパーレッシャーを登場させています。

 ということで、ライトがメインとなるエピソードなのですが、思いがけないズラシが使われて単なるパワーアップ編とは印象を異にしているのが巧い。

 シャドーライン側にはまさかの新幹部登場もあり、後半戦突入に際して色々な仕掛けを施してきました。


 実のところ、今回の目立ったトピックは、実はパワーアップ関連よりもむしろシャドーライン側にあります。

 やはりモルク侯爵なる新キャラが強烈だったからに他なりません。

 女性の幹部級敵キャラと言えば、長らく妖艶なデザインであったり、アイドル系の素面キャラだったりといった具合で定番化していたわけで、今回のようにはっきりと年齢を感じさせるものは実に珍しいと思います。

 デザインに関しても、特に頭部造形には年輪を加えたものになっており、非常に鮮烈な印象を与えます。声も大ベテランの鈴木れい子さんが担当し、現在は中堅の声優陣で構成されているシャドーラインをビシッと締める存在感を発揮しています。

 思えば、このように年齢を感じさせる女性幹部って、戦隊ではどのくらい登場しているのでしょうか。

 へドリアン女王はこの系譜の始祖ではあるのですが、当時の曽我町子さんの年齢を考えると「年齢を感じさせる」は言い過ぎな感も(笑)。その後を辿っていくにも、威厳ある女性という意味だけ抽出すれば、「ダイナマン」の女将軍ゼノビア、「チェンジマン」の女王アハメスが挙げられる程度で、こちらも若い部類。ようやく「ジュウレンジャー」で曽我さんの年齢がそれなりになるものの、やっぱりモルク程の老獪さよりはお茶目な印象が強いです。その後は、素面ならばセクシャルアイコンかアイドルか、スーツならば妖艶で少なくとも中年止まりといった具合でパターン化します。そんな中で「ゲキレンジャー」のラゲクはやや特殊な印象を残すキャラクターでした。妖艶キャラの系譜にありながら、老獪さも兼ね備えた傑作キャラクターでしょう。

 そんなわけで、モルクはエポックメイキングなキャラクターなのかも知れません。前代未聞のババキャラです。匹敵するのは戦隊外、「ギャバン」の魔女キバくらいでしょうか。キバを演じていたのは男性の三谷昇さんでしたが(笑)。後は「レインボーマン」の魔女イグアナとか(ちなみにイグアナの母・ゴッドイグアナは曽我さん)。

 話をモルク自体に戻しますが、ゼットの乳母という設定がこれまた興味深い処で、今回は登場時にいきなりゼットの腕試しをしたり、お目付役らしい口の利き方をしたりと、その設定が存分に活かされています。

 特に「闇の力が弱い」と指摘するくだりでは、いつもは「退屈そうな不機嫌」を装うゼットが、「明らかな不機嫌」にシフトしていくという機微を捉える事が出来ます。それ故、クライマックスではハイパートッキュウ1号と手合わせするに至るわけですが、ハイパートッキュウ1号の超パワーお披露目から逆算したものであるとは言え、ゼットの感情を中心に持ってきた辺りは巧いと思いますね。

 さて、肝心のライトの方ですが、今回は風邪をひいていて無理をしているという設定。その無理をしている様子が、他の面々からは不機嫌に見えるというのは面白い趣向ですが、やや無理があったというべきか、あまりストーリーに斬り込まない表層的な要素だったように思います。熱に浮かされているからこそのイマジネーションの爆発とか、そういった設定の方が面白かったのではないかとも考えてしまいます。

 まぁ、そんな設定にしてしまうと、「差迷井駅」と化した街を救う意味自体が表層的になってしまい、今回のように「親に会いたい子供達」を軸としたイマジネーションの発露が描かれない事になるので、これはこれで正解だったと思います。ただ、風邪はラストシーンにおけるミオの色っぽいカット以外にメリットはなかったと思う処で(笑)。ハイパーレッシャーのイマジネーションを見出した後はケロッと治ってますし...。苦悩しないライトのメンタル的な弱さを描く為には、体の調子を悪くするしかなかったんでしょうね。

 今回はこの風邪のくだりもあってか、パワーアップ譚としては妙に淡々とした処があって、大抵の「大ピンチからのパワーアップによる大逆転」よりはクールな展開になっています。闇駅については、先の乗り換えによる頭脳プレーでの逆転が果たされているのもあって、今回の緒戦の敗因はライトの調子の悪さのみという印象。モルクとゼットも本気で襲ってくるわけではなく、むしろバラバラになった5人がどうやって集合するかというサスペンスの方に重心が置かれています。

 そこでは、明がザラムの姿になってまでハーモニカを吹き続けるという「熱さ」が発揮されており、実際のパワーアップ譚よりも感動的だったのがある意味困った処。最終的には、ハイパートッキュウ1号の素晴らしい戦闘力に目が覚めるような感覚を覚えることになり、クライマックスバトルの熱さは特筆すべきものに仕上がっていましたから、これは演出面の勝利ですね。ストーリー上、ピークは明らかに明の方にありましたから。

 ただ、このパワーアップに関しては、「トッキュウジャー」の良心といったものを感じ取れました。

 パワーバランスの変化に順応する為、戦力アップにしのぎを削るという殺伐さを、ライトの口を借りて完全に否定し、楽しい街を復活させる為には自分が楽しいイマジネーションを持っておかないとダメだというテーゼを示したわけです。

 それ故に、やや奇怪なデザインのハイパートッキュウ1号にも「遊び心」という点で納得させられるし、戦闘スタイルも、ただ豪快に敵を切り刻んだり撃ち殺すといった「処刑人」を想起させるものではなく、とにかく機関車のパワーでぶつかっていくというものとなっていて、そこにはちゃんと「遊び心」を見出せます。トイメーカーの遊び心から生まれたガジェットを活かすのが、近年の東映特撮は実に巧いですよね。

 次回は、敵味方様々な人間模様が引っ掻き回されるようで。やっぱりパワーアップの後はこうでなくては!