Space.39「ペルセウス座の大冒険」

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 三つのキュータマを巡るバラエティ編の2本目。

 前回もかなりコミカルな一本でしたが、今回は前回のユルさとはまた別種のコメディを「気合入れて作りました」と言わんばかりの高レベルで仕上げてくれました。大いに笑って、少しホロリとさせる友情物語に感動して、また笑って...といった具合に、ナンセンスコメディを押し出しつつ、喜劇の常套句を踏襲していく感覚が素晴らしいエピソードでした。

 今回のMVPは何と言ってもスティンガーでしょう。無論ストーリー的にもスティンガーがメインでしたが、「怪演」と呼ぶに相応しい立ち回りで、観衆の目を、耳を、かっさらって行きました。

 勿論、うじきつよしさんの待望の出演も見逃せないポイントです。

アントン博士

 というわけで、まずはアントン博士について。

 結論から言えば、前回まで二人のアントン博士が存在するように見せていたのは、周到な仕掛けでした。回想の中でチャンプに心の重要性を説く善のアントン博士と、フクショーグンたちやマーダッコを強化し、ジャークマターの戦力を支えていた悪のアントン博士。善のアントン博士は間違いなくスコルピオに粛正されており、悪のアントン博士は機械に融合して生き長らえていた...というのが、アントン博士に纏わる謎の答えです。

 そして、善悪二つのアントン博士は、元々一つであったというのが驚愕のポイント。

 元々アントン博士は二重人格者であり、ジャークマターに与することに疑問を抱いているジキルの面と、マッドサイエンティストとしてのハイドの面を内包していたということでした。自らをサイボーグ化して生き長らえる過程において、マッドサイエンティストの人格が善の心を邪魔と見做すようになり、遂に善の人格のみを切り離して自らは機械と融合したというのが真相となります。

 チャンプが過去に留まってアントン博士のことを調べた際、アントン博士がジャークマターの科学者として活動していることを知りましたが、それは真実だったわけです。そして、スコルピオに裏切り者として粛正されたのも、また真実。チャンプに心を教えたアントン博士も、フクショーグンたちを蘇らせたアントン博士も、どちらも真に存在したということで、なかなかアクロバティックな解決になっていたと思います。しかも、アクロバティックでありながら、実に単純で分かり易い。大人が一緒に見ている子供にちゃんと説明できる明快さというのは、特撮ヒーローものとして実に重要な要素であり、制作の良心を感じるところです。

 そして、何と言ってもうじきさんの存在感でしょう。

 ジキルとハイドの両面を、エキセントリックな芝居で遺憾なく表現してしまう素晴らしさ。悪のアントン博士の正体は機械なので、うじきさんの出番はホログラム映像ということになりますが、その出で立ちとセリフ回しが絶品でした。うじきさんは「子供ばんど(KODOMO BAND)」というロックバンドのフロントマンでもありますが、かつての定番衣装(?)が頭にミニアンプを乗せているというものでした。今回の衣装はそのオマージュになっていて、往年のファンはそのあたりを楽しむこともできたわけです。エキセントリックな言い回しを実に楽しそうに演じていらっしゃるように見え、これから先の出演も大いに期待したいところですが、果たしてどうなるでしょうか。

チャンプ

 チャンプが暴走回路を備えているという設定は、アントン博士の二面性が描かれることで、ようやく意味を持ちました。

 まず、善人然としていたアントン博士が、なぜチャンプに暴走回路を取り付けたのかという疑問、それが氷解しました。私は、アントン博士が保身のために暴走回路を取り付けたのだろうと思っていたのですが、実は悪の人格が純粋に破壊兵器であるゼロ号の後継機としてチャンプを開発し、その後、善の人格によって心を託されたものと判明。もっと想像をたくましくすれば、悪のアントン博士は善の彼にチャンプの製造過程で邪魔をされ、暴走回路をコアへ完全に融合させることができなかったのだろうと推し量れるわけです。スティンガーによって暴走回路を破壊されるシーンでは、コアの部分に善のアントン博士が宿っているかのような象徴的なカットが挿入され、チャンプもまた、アントン博士と同様に二面性の中で葛藤する運命にあったとされました。

 ここでは、アントン博士自身の「悪心」が肉体を切り離して機械に宿り、結局、「善心」を宿した肉体は粛正されて滅びてしまう一方、心を持たない破壊のための機械として作られたチャンプが、「善心」を宿して救世主となるという、見事な対比が見られます。機械 VS 機械の構図ともなるわけですが、チャンプにはスティンガーをはじめとする仲間たちの存在があります。不可能とされたチャンプの暴走回路破壊をスティンガーが成し遂げられたのは、チャンプのコアに宿ったアントン博士の善心の導きである...と思わせる前述のシーン設計が、正に心ある者と心ない者の激突といった感覚を増幅しているように思いますね。

 このチャンプとアントン博士の物語は、結果的にラッキーとアスラン王の一件と非常によく似た構図になりましたが、こちらの方が全体的な完成度は高かったように思います。今回はコミカルな味付けも過剰でしたが、その中で繰り広げられるシリアスな部分は、コメディの中だからこそ光るという面もありましたし、何と言ってもアントン博士とスティンガーの芝居の巧さ、チャンプの両演者の素晴らしさが際立っていました。ラッキーとアスラン王のエピソードでも、対峙する親子の芝居の巧さは勝るとも劣らず光っていましたが、如何せんシチュエーションの設えが甘く、割を食ってしまったようですね。

スティンガー

 そしてMVPのスティンガー。

 今回は、いつものクールキャラに見え隠れするギャグタッチの天然性を、極限まで拡大させたような人物設計を与えられました。

 悪のアントン博士が、その天才的頭脳で作り出すRPG風の異世界で、変身すらできなくなったラッキーたちは、それぞれRPGの世界観に則したキャラクターへと強制的に変身させられることになりました。ラッキーは魔法使い(しかも女性)、スパーダはマッチョな戦士、小太郎は勇者、そしてスティンガーは道化師...。小太郎は別として、他の面々は完全にギャグテイストです。中でもラッキーが気恥ずかしい感じで女性の口調になってしまうのは、なんとも爽やかでいいですね(笑)。意外な肉体派振りを見せるスパーダも格好良く、小太郎はこれぞドラクエの実写化と言わんばかりのイケメン振りが凄いです。

 スティンガーは、こちらが本性ではないかと思わせる怪演振り。演者である岸さんのポテンシャルがフルに発揮されたと言っても過言ではないです。

 まず冒頭、「一体どういうことなんだーー♪」と歌うスティンガーに、いきなり度肝を抜かれます。最高音が中央ドから1.5オクターブ上のファ♯!! かつて個人的にボーカルをやっていたことがあるので何となく知ってますが、これは相当訓練しないと出せない音です。Earth, Wind & Fireの「宇宙のファンタジー」を歌うときに、それより半音高いソを出すところがありますが、調子が良い時じゃないと出なかったです。今ではもう出し方すら覚えていない始末(笑)。

 その後、戦闘中に情けなく退散していくなど、日頃のスティンガーとは全く異なる振る舞いをして笑いを誘いつつ、最後は独りミュージカル状態に突入。さすがはミュージシャンの岸さん、ともすれば単なるコントになりかねないシチュエーションを、見事「チャンプへの熱い友情が歌となって届く」というレベルにまで昇華させ、感動的なシーンを創出していました。ここではさらに、チャンプに心が宿っているからこそスティンガーの歌に応えたのだと、確実に分かるような各種要素が切れ味鋭く描かれており、実に高レベルでまとまっていたと思います。

 「トランスフォーマー2010」に「音楽惑星への挑戦」という有名な作画崩壊エピソードがあり、そこでは歌いながら意思疎通する惑星ユーリズマの人々が登場しますが、正にセンス・オブ・ワンダーなストーリーの面白さは別として、コントの域から逸脱しない印象に留まっているのは、やはり演出(そして作画)の稚拙さ、ひどさが原因だろうと思われるわけです。声(原語版は未視聴)のキャスト「だけ」は非常に巧いので、余計に可笑しさが増幅されます。

 一方で今回のスティンガーに関しては、コメディに思いっきり振っておき、後からシリアスなソリューションへと帰結する構成力もさることながら、演出と芝居の巧さこそが感動を支えているのだとよーく分かります。コメディこそ卓抜した演技力が必要とはよく言ったものです。

メカマーダッコ

 アントン博士に改造され、再生能力と引き換えに抜群の戦闘力を手に入れたとされるマーダッコ。乱暴な口調は以前にもあったような...。ということで、新味に乏しいのは否めないところ。ただ、アントン博士やチャンプの話にいきなり新怪人が登場するよりは、説得力を持っていたように思います。

 今回もまた倒されず退散しているので、最後まで引っ張るのかも知れませんね。三人のフクショーグンよりはキャラ立ちしているので、それはそれで悪くないと思います。

次回

 バラエティ編も大詰め。今度は野球対決! 「ゴレンジャー」から連綿と継承される野球対決を、今シーズンはどのように魅せてくれるのか、楽しみですね。